猫とボク。
 アゲハ助けて、と、ボクの部屋のドアをカリカリやるタマ。
「アゲハに甘えんじゃないわよ!」
 タテハがすかさず応じた次の瞬間。

 いったーい、と、タテハの悲鳴が上がった。

 「アゲハっ、アゲハ、お部屋に入れてくれー!」
「はいはい……」
 ぴゃーっとつむじ風のごとく部屋に飛び込んできたタマは。
 ボクのベッドの下、人間の手が簡単には届かないところへ逃げ込んだ。
 もちろん、ベッドを動かせばタマを捕まえられる。
 けど、それはしないことにしている。
 タマにだって、逃げ場所は必要でしょ?

 「タテハ、大丈夫? どこやられた?」
「ココ……」
 どれ、と見れば。
 首筋に、赤い筋がススッと走っている。
「あらら……」
「今夜、デートなのに、これじゃ行けない……」
「デートって……あの爬虫類のおっさんとまだ付き合ってんの?」
「悪い?」
 ああ、悪いとも!
 廊下に座り込んでしょぼくれるタテハには悪いけど。
 ボクはそっと背後を振り返って、おっかなびっくりこちらを見ているタマに、よくやった、と賞賛の眼差しを送っておいた。
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