猫とボク。
 ……誰だろう、三丁目のハチゴロウって……。
 いや、それはともかく。
 どうやら、テリトリーを侵犯されて怒ったらしい、というのはボクにもわかった。
 いやはや。
 ほとんど家の中にいる、『家猫』のタマにも、テリトリーがあったとはねぇ。
 驚きだ。

 バスルームのドアをきっちりしめて。
 逃げられないよう、身体を押さえて、前足に猫シャンプーを塗りつける。
「うにゃぁ、シャンプー嫌い」
「あっ、舐めちゃダメだよ」
「うう、キモチわるい」
 ごめんねぇ、タマ……。

 さっさとシャワーで泡を流して。
 小さな前足をぎゅっと絞ってタオルで拭けば。
 綺麗なタマちゃんの出来上がり。
 んぺっ、んぺっと足を舐めるタマに、ボクは何気なく言ってみた。
「お庭くらい、あげれば良いじゃん。この家全部、タマのものなんだしさ!」
「違うよ……お庭におトイレされたら、このお家、ハチゴロウのものになっちゃうんだよ」

 なに!?
 なんですと!?

 「春が近くなってきたら、みんな動き出したんだよ」
「……タマッ! ハチゴロウとやらを、追い出せーっ!」
「オーッ!」
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