猫とボク。
タマの好み
 なんだかすっかり眠気が抜けて、呆気に満たされたボクは、タマの柔らかい体を抱き上げて自室を後にした。
 まだ朝だというのに、廊下には夏の熱気が籠っていて蒸し暑い。
「今日も暑くなるな」
「そうだね。タマは、暑いの苦手そうだね」
「おう、苦手だ」
 だろうね。
 扇風機の前で、長く伸びてるもんね。
「冬も嫌いだ。春が好きだ」
 秋は?
「どっちでもいい」

 「あ、そうだ。ボクがタマの言葉が理解できるってこと、内緒にしてね」
「ん、アゲハがそう望むならそれでいいぞ」
 言いながらタマは、こつんと額をボクの顎に擦り付けてくる。
「あらタマちゃん、アゲハと仲良しさんね」
「にゃ~ん(おう、母上さま!)」
 母上さまぁ!?
 ボクのことはアゲハって呼び捨てのクセに!
「アゲハ、早く朝食食べなさい。遅刻するわよ」
「は~い」
 タマは、母さんが洗濯物を干しに庭に出るのだと気が付いた途端、ボクの腕からするりと抜けていった。
「うにゃ~ん!」
「あらタマちゃん、お外見たいの?」
「にゃうにゃ、にゃん(違うよ、母上さまのお側にいたいんです)」
 タマが、母さん大好きだとは知らなかったよ!
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