猫とボク。
 「タマ!」
 ボクはタマを抱えるとリビングの隅へとダッシュした。 
 ふんふん鼻歌を歌うタテハは、髪を真っ直ぐに伸ばすことに夢中。
 ボクらの行動にはまるで気が付いていない。

 「タテハの相手、誰か知ってるの?」
「あれ、知らない? 三丁目のアーサーん家の兄ちゃんだよ。どこがいいんだか。オレは好かないね」
 まてまて。アーサーとは誰だ。
 犬か、猫か?
「あ、アーサーってのは、ヘビな。にょろ吉とか呼ばれてるな」
「ヘっ……うぐっ」
 素っ頓狂な声を上げそうになったボクの口を、タマがぺたっと塞いだ。
「落ち着け」
「う、うん」

 そう言えば三丁目で、ヘビを飼っているおうちが確かにあったけど……。
 けど、そこにタテハと釣り合うような、若者は居ない気がするんだけどなぁ。
 うーん……。

 ふとタマが静かだなあ、とみれば、呑気に顔を洗ったりお腹を舐めたり、毛繕いに忙しい。
「ちょっとタマ! 何呑気に毛繕いしてんのさー!」
 思わず大声をあげたら、母さんとタテハが一斉に変な顔をした。
「アゲハ? タマちゃんいじめないでよ?」
「アゲハ、猫相手に語るなんて、寂しいよ?」
 つーんと澄ました顔のタマが、小憎らしく見えた。
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