愛しているので
―シッテルー

「一樹は、確か家が遠いんだよね?」

「うん! いつもお母さんが車で送り迎えしてくれてるよ。パートの合間にやってるから結構大変みたい」

「パート? 共働きなの?」

「そう! 緑ヶ丘駅の近くの『モリナガ』ってスーパーだよ。家の近くなんだ」

「緑ヶ丘駅って、ここの最寄から五つも先の駅よね。乗り換えとかもあるんじゃない?」

「電車で行けばね。車だったら三十分くらいだよ」

「大変だね」

「うん。そう」

「わざわざこんな離れた駅の塾に通う必要なかったのに」

「この塾、評判いいって他のお母さんたちに聞いたんだって!」

「へぇ」
 改めて奥様方の口コミのすごさを実感した。

「あたし、この塾にしてよかったよ!」
 一樹が消しゴムをいじりながら下を向いたまま言った。

「雪先生の英語分かりやすいし、あたし、成績上がったもん」

「そう言ってもらえると、教えてる甲斐あって、嬉しいな」

 私たち二人は静かな教務室でお互い笑いあった。


 ほんとに素直でいい子だ。この子が自分の子だったらいいのに・・・
でも一樹は彼と壱子さんの子。

壱子さんは体調大丈夫なんだろうか。過呼吸は今も頻繁に起きているのだろうか・・・私がいなくなったんだから、きっと元気だよね。

私はふふっと笑いたかったけれど、頬が震えて上手く笑えなかった。そんな私に一樹は特に気付く様子もなく、課題プリントに集中し出した。私も気付かれなくてホッとしながら、頑張ってねと声をかけ自習室を出た。
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