としサバ
 「あれから家族で話し合ったよ。結論から言うと、しない事にしたよ」
 
 「どうしてだ」

 「実は、離婚はしない事になった」
 「離婚はしないのか」

 「妻も子供たちも反対なんだ。それで、1年間限定の別居になったよ」

 「期間限定の別居か。賞味期限のある和菓子みたいだな」

 甘党らしい榎本の表現に、信彦は苦笑いをした。


 「ただし、別居には条件があってね」
 「条件があるのか。どんな条件だ」

 「1年で家庭に戻るので、借金を作るなと言うんだ。その為には、他の人からは融資をつのらない、信用取引をしない。この条件を守れ、ってね」

 「敵もしっかり者だな。それで、その条件を守るつもりか」

 「そのつもりだ」

 「嘘を付けばいいだろう。そんなの、分かりっこないよ」
 「それは、出来ない」

 「深見らしいよ。生真面目で要領が悪過ぎる」
 「悪いが、あの話は無かった事にしてくれないか」

 「仕方が無い。諦めるか」
 「済まん」

 「考えが変わったら、教えてくれ」
 「当てにしないで欲しい」

 「わかった。わかった。じゃな、また来るよ」


 そう言いながら、榎本が帰って行った。

 信彦は、家族との約束を守れた事に安堵感を感じていた。

 自分の遣りたい事をやらせてくれる、家族の優しい思い遣りを、裏切る訳には行かなかった。









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