としサバ
 「靱公園のすぐ近くなのね」
 「1DKだから、狭くてびっくりするよ」


 二人はマンション中に入った。


 「ここが、深ちゃんのお城か。何も無くってシンプルね。やっぱり、深ちゃんのセンスは、私に近いんだ」

 「女将は、冷と燗とどちらがいい」
 「じゃ、燗を頂くわ」

 電子レンジでチンをすると、信彦はデスクの空きスペースに酒カップ2本とするめ、竹輪を並べた。

 女将がパソコンを見ながら言った。


 「パソコン3台もあるけど、何をしているの」
 「ネットで株取引をしているんだ」

 「うちのお客さんの中にも、株をやっている人がたくさんいるわ。でも、口を揃えて、損をした、損をした、と言っているわよ。深ちゃんはどうなの」

 「まあまあかな」
 「それなら、いいじゃない。損をしなければ、上首尾よ」

 信彦は、四友自動車で莫大な含み損を抱えているとは、女将には言えなかった。


 (どこまで下がり続けるのだろうか)


 一瞬、信彦に不安がよぎった。



 
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