としサバ
 「これしかないのよ」


 雫は保の涙を、自分のハンカチで拭いてやった。


 「今野さんが死ぬなんて、絶対にいやだ」

 「吉岡君、お願いだから、私の言う事を聞いて」

 「・・・」
 「お願い」

 「わかったよ・・・聞くよ」
 「吉岡君、座らない」


 雫は石段に腰を掛けた。

 遠くでウインドサーフィンの乗り手が海に落ちた。

 乗り手は浮かび上がると、体勢の立て直しに躍起になっている。


 「海はいつまで見ても飽きないね」
 「うん」


 雫は保の顔を覗き込んだ。

 保はじっと海を眺めている。

 涙は止まっていた。




< 202 / 285 >

この作品をシェア

pagetop