としサバ
 「マンションの中には、女がいたのよ。昨日は泊まったようだったわ。あの狭い折り畳みベッドで、二人抱き合って寝ていたのよ。呆れるでしょう」

 「本当なの」

 果穂が驚いた顔をした。

 「しかも、泊まりは、これで2度目よ。私、怒りが込み上げてきて、抑えるのが大変だったわ。情けなくって、情けなくって。私、お父さんの事、尊敬していたのに。もう、頭に来たわ」

 沙穂は父親の無様な姿を思い出して、今も怒りが納まらない様子だった。

 「その女の人って、どんな人なの」

 「小料理屋の女将みたいで、綺麗な人よ。年齢は30代の半ば位かな。その人ったら、変な言い訳をするのよ」

 「どんな言いわけ」

 「お父さんの男性機能が役に立たないから、二人は綺麗な関係だって。よく言うわね」

 「お父さんは、どう言っているの」

 「お父さんも似たような事を言っていたな。確か、二人は男と女の仲では無く、友達みたいな仲とか、何とか言っていたように思うわ」

 「そんな事言っていたの」

 果穂は何となく二人が言っている事は、嘘じゃ無いような気がした。


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