としサバ
 (夫の信彦は誠実な人だから、そんな嘘はきっと付かないだろう)

 果穂は、そのように考えていた。

 「そんな言い訳、お母さんは信じられる」

 「そうかも知れないね。お父さんは、そんな嘘の付ける人では無いと思うけど」

 「万が一、そうであってもよ。そんなの不自然よ。男と女がひと晩を共に過ごして、ただの友達なんて、私は信じられないわ。そうは、思わない」

 「心が惹かれ合っているのかな」

 「心が惹かれ合っているなら、なおの事、許せないわ。妻がありながら、他の女の人と心が結ばれるって、それこそ浮気じゃないの。体だけの浮気より、もっとタチが悪いと思うけど。お母さは許せるの」

 「そりゃ、許せないわね」

 「私が頭に来ているのは、私たちの誠意を裏切った事よ。みじめな仕事をさせたくなかったから、私たちはお父さんがひとりで株の仕事をする事を許した訳でしょう。それが、何よ。女を作るなんて。馬鹿にするにも程があるわ」


 「私も同感よ。私たちの誠意を踏みにじったわ。馬鹿にしていると思うし、許せないと思うわ。どんな事情でそうなったかは知らないけど、今の立場を考えて、ひとりで暮らしても、常に家族がいる事を忘れるべきではないのよ」




 
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