としサバ
 「私たちがいけなかったのかも知れないわ。別居なんかを勧めたものだから、こうなったのよ。あの時、断固、離婚を反対すべきだったのよ」


 「別居してなくても、こうなったかもわからないわ。大切なのは、夫としての、父親としての認識の問題よ。あの人は、夫としての、父親としての認識が欠如しているのよ。家族の事を考えれば、何をすればベターか、何をすればタブーか位、すぐにわかるはずよ」


 「お母さんの言う通りだわ。お父さんって、最低よ。私、そんな人を今まで尊敬し、誇りに思っていたなんて、馬鹿みたい」


 「沙穂、いろいろ心配してくれてありがとう。お父さんの事は、良くわかったわ」


 「お母さん、これからどうするの。離婚をするの。私はお母さんがどんな決断をしても、お母さんの決断を尊重するわ」


 「ありがとう。一度、ひとりでじっくりと考えてみるわ。沙穂、悪いけど、ここまでのいきさつを、勝彦にも知らせておいて欲しいのだけれど」


 「わかった。兄貴には、私から電話をしておくわ」


 「頼むわね。どうするかが決まったら、あなたに知らせるわ」


 「了解。お母さんくれぐれも気を落とさないでね」

「ありがとう」


 果穂は夫との事、これからの生活の事を、ひとりでじっくりと考えてみようと思っていた。

 沙穂が帰りひとりぼっちになると、娘の前で気が張っていたの不思議な位、ふにゃふにゃと力が抜けたようになっていた。


 (これから、どう生きたらいいのかしら)


 果穂は悔しさと惨めさを噛み締めていた。そして、自分が生きた歴史を通して、味わった事のない孤独感を味わっていた。




 
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