としサバ
 女将は信彦と結婚してもいいと、確かに言った。

 信彦も女将と接すると、同性には感じないときめきを感じた。

 二人の間に、男と女の惹かれ合う感情があった事は、間違いの無い事だった。


 「それは・・・」


 「それは何よ。言い訳ができないでしょう。水商売の女に肉体だけを奪われるなら、まだ許せるかもわからない。しかし、心まで奪われるとなれば、これは妻に対する侮辱よ。女にとっては、体の裏切りより、心の裏切りの方がずっと罪が重いのよ。まだ、私の目を見て、あなたは言い訳が出来るの」


 こんなにきつい果穂を見た事は、信彦は今までに無かった。そして、今始めて事の重大さを、痛いほど認識した。


 (妻がこんなに強い女だとは知らなかった)


 結婚して以来、30年以上自分に見せた事の無い、別人の妻がそこにはいた。


 信彦は、無条件降伏をするしかないと考えていた。



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