としサバ
 「お前の言う通りだ」

 「あなたは私に対してだけでなく、家族の信頼をも裏切ったのよ。沙穂や勝彦が怒っているのもその点よ」

 「勝彦も怒っているのか」


 「そうよ。あなたに電話する前に勝彦にも電話をしたわ。そしたら、お父さんに別居を勧めたのは女を作らせる為じゃない。惨めな仕事をさせるより、自分のしたい仕事をさせて上げたいと思ったからだ。恩を仇で返すなんてひど過ぎるって、カンカンになって怒っていたわ。あの子ったら、お母さんに悪い事をしたって、苦やし涙を流していたほどよ」


 「勝彦がそんな事を言っていたのか」


 「勝彦だけじゃないわ。沙穂だって頭に来ていたわよ。沙穂はあなたを尊敬していたのよ。それを裏切られたって、大変ショックがっていたわ」


 「そうか。済まない事をしてしまった。俺が馬鹿だった」


 信彦に、もう言い訳をする気力は残っていなかった。



 
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