としサバ
 「次長、お元気で」

 「大変お世話になりました。これからも頑張って下さい」

 「次長の事は忘れません。ありがとうございました」

 宣伝部の全員から似たような贈る言葉の嵐。
 女子社員から花束の贈呈。


 ドアの両側に社員が並び、拍手の花道を渡り終えれば、チョンチョンと幕が閉じる。

 三度笠を斜めに被ったやくざ者のように、信彦はトントントンと足早に花道を渡るつもりでいた。

 花道の半ばころに差し掛かった時、娘さん、いや女子社員の香田沙紀が突然飛び出して来た。


 「次長・・・」


 言葉にならない。

 涙がポロポロ落ち、沙紀はただただしゃくり上げて大泣きしている。


 「う、う・・・。寂しいよ。次長がいなくなるなんて、寂しいよ」


 花道に並ぶ男子社員たちが、何が起こったのか、わからないような顔をして、二人をじっと見詰めている。

 「入社した頃から・・・失敗ばかりしている私を・・・う、う、う、次長はいつも優しく見守って・・・ういっ、ういっ、くれました。わあわあわあ・・・」


 泣いてばかりで、何を言っているか、はっきりわからない。




< 28 / 285 >

この作品をシェア

pagetop