としサバ
　酒は十分過ぎるほど飲んでいたが、まだまだ何かモノ足りない。
　信彦は馴染みのカウンターバーに行き、水割りを数杯飲み、カラオケを何曲かがなり立てた。


　その店をを出てからは、ふらふらふらの千鳥足。どこに行くのか、足任せに歩いていると、信彦は大きな通りに出た。


　「あっ、み、御堂筋か。俺様は定年だ。何か文句あるか。この、おたんこなす。ウイッ」


　また、酔いがかなり回ってきた。


　「俺様が、ただの使い捨てのティッシュペーパー。バ、バ、馬鹿にしやがって」


　先ほどまで忘れていた怒りが、また蘇ってきた。
　信彦は御堂筋に向かって、罵声を上げた。

　行き交う人が、何事かと振り返りながら歩いて行く。
　信彦は酔った勢いで、御堂筋の車道を中央へと歩き始めた。




　「ブー」



　「ブブー」


　「馬鹿やろう」


　次から次に、車がクラクションをけたたましく鳴らした。

　タクシーの運転手は窓を開け、怒鳴り声を上げている。




< 36 / 285 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop