としサバ
 信彦は果穂と話し合った翌日から、朝8時前に自宅を出て、靱公園の近くにあるマンションに通うようにしていた。


 マンションに入ると、信彦はすぐに3台のパソコンのスイッチを入れた。時計を見ると、8時45分だった。

 ラソタ自動車は、2005年4月に2680円をつけている。
 信彦はそれから1割位上がった2970円で、500株買っていた。


 今日の株価は、7800円を行ったり来たりしている。
 8000円になれば、売るつもりでいた。


 パソコンの画面の株価を見ていると、近くでデザインスタジオを経営している榎本真治がケーキを持って現れた。


 「よっ、なかなかいいじゃないか。これじゃ、ちょっとしたトレーディングルームだな。
しかし、思い切ったものだな」

 「まあ、こんなものだろう」
 「お前を見直したよ。こんなに勇気があるとは知らなかったなあ」

 「そうでもないよ。就職が探せないだけだよ。株で食べて行くなんて、正気じゃないって、妻には散々いやみ言われているんだから」

 「そらあ、奥さんならそう言うだろうな。まあ、まともじゃ出来ないだろうな。だから、面白いんじゃないか」

 「他人事だと思って、よく言うよ。馬鹿な事言ってないで、まあここに座れよ」


 榎本が折り畳みの椅子に座った。




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