としサバ
 パソコン3台が並ぶ長めのデスクの端に、少し空きスペースがある。
 そこに、榎本がポンとケーキの箱を置いた。

 「おい、コーヒーでも入れろよ」

 信彦がインスタントコーヒーをカップに注いでいると、大の甘党の榎本は、もうケーキを食べ始めている。

 「相変わらずだな」
 「この店のケーキは、なかなかいけるぞ。お前も食べないか」

 コーヒーをすすりながら、榎本は2個目のケーキを食べ始めている。
 信彦もケーキに手を伸ばした。


 「どうだ。やって行けそうか」
 「何とかなるだろう」

 「利益は出せそうか」
 「うん、ラソタ自動車で稼がしてもらえそうだ」

 「幾らで買ったのだ」「
 「数年前に、3000円位かな」

 「今、幾らになっているのだ」
 「7800円位かな。500株持っているから、まあひと息付けるかな」

 「4800円の500株か。いい稼ぎじゃないか。お前は長期投資を専門にしているのか」

 「短期もやっているよ。今日も一日で3万円ほどを稼いだ所だ」

 「お前が投資の才能を持っているなんて。驚いたよ。俺にも出資をさせろよ。」

 「出資するって、幾ら位を考えてるんだ」

 「1000万円位なら出資出来るかな」
 「1000万円か」

 「ただし、出資するとなると、利益分配はシビアに貰うよ。リスクも大きいのだから、当然だろう」

 「そうだな」

 「その代わり、うまく行ったら、大学の友人たちにも話をして、出資先を広げてやるよ。
2000万円位なら、楽に集められるだろう」

 「榎本の1000万円とで3000万円か。僕の手持ち資金とあわせると、ちょっとしたファンドだな」

 
 「どうだ、本気で考えてみないか」


 「少し考えさせてくれないか」


 妻との離婚話が暗礁に乗り上げている今、榎本の話に、すぐに応じる訳にはいかなかった。

 自分でやる以上、大きくやりたいという気持ちもあった。


 信彦は果穂の暗く沈んだ顔を思い浮かべて、深いため息をひとつ付いた。





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