You
 

電車の動きに合わせて吊革が揺れる。

各停だからか窓の外の動きはそこまで速くはなく、少し離れていれば目で追える程度だった。

昼のあまり人がいない時間を選んだのに、丁度皆が通勤したり通学する朝の地元の路線と乗客の数が変わらなくて、最初は驚いた。

今は紫色の七人掛けシート一つに二人くらいずつ座っている。
寝ていたり、音楽を聞いていたり、雑誌を読んでいたり、様々だ。

私はというと駅に着く度にあと何駅かを確認する程度で他は何もしていない。
強いて言えば窓の外を眺めるくらい。

さっきは、今はビルの裏に隠れてしまった富士山を眺めていた。
それから富士山のことを考えた。
よく考えれば、富士山はなんてことはないただ日本一高い成層火山というそれだけなのに、なぜここまで崇拝されているのだろう、とか。

足下に置いた大きな荷物を私は脚でぎゅっと抑えつける。
そうしないとずるずると滑っていってしまう気がした。


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