君を、僕は。
3
少女十四歳。
少女は女学校に進学した。
長くなった髪は、綺麗に結い上げて、少し伸びた身長は、新しい赤の着物袴に包んだ。
少女はまだ成長途中、
女学校の校門まで、一本長く続く道、銀杏並木のその道は、この秋も綺麗に黄色く染まった。
やっと慣れたわたしの学び舎。
門を出てすぐはじめの一本の、銀杏の横に、わたしは立っていた。
帰って行く生徒を見送り、銀杏並木の遠くを見ては、俯いて。
俯いていると、目の前に影が出来上がった。
「小春ちゃん」
見上げれば、待っていたその人。
息を切らして、目を狐さんみたいに細めて、すごく申し訳なさそうにしていらした。
「馨さん」
彼は、春近さんの同級生の、小野馨さん。
わたしは馨さんを見上げて、控えめに微笑んだ。
馨さんがわたしを送り迎えしてくださるようになったのは、
春近さんが江田島に行ってからだった。
わたしはもうすっかり馨さんと話せた。
「ごめんね今日は少し講義が長引いちゃって」
「大丈夫です、全然。走っていらしたんですか?」
「う、うん。早く小春ちゃんに会いたかったんだよー」
銀杏並木の片隅で、話す二人はいつまでたっても少しよそよそしい。
馨さんは、明るく振舞ってくれる、けれどわたしは、だめで。
だからよそよそしいのは、わたしのせいで、
けれど馨さんはいつもわたしを迎えに来てくれた。
とても身長の高い、馨さん。
わたしは馨さんを見上げ、眉を下げた。
走ってまで来て下さって、わたしは、お礼も出来ずにいたから。
「心配してくれてるの?嬉しいな」
ニッと馨さんは頬を緩めた。
なのでわたしも、頬を、少し緩めた。