君を、僕は。
馨さんのお母様は、丁度外出していたみたいでお家にはいらっしゃらなかった。
馨さんの部屋に通してもらって、わたしは馨さんの勉強机に座る。
机の傍らに馨さんは立って、にたっと笑った。
「本当可愛いなぁ」
そう言って馨さんは、すぐそばの寝台に落ちるように座られた。
馨さんの家に来たのは、初めてではなくて、
勉強を教えてもらう時はいつもこの形だった。
部屋の隅におかれた勉強机にわたしが向かって、馨さんは隣の寝台に座って覗き込むように勉強を教えてくれる。
「あ、お茶淹れてくるよ。母さんいないんだった。ちょっと待っててね」
そう言って、馨さんは部屋を出ていった。
一階の馨さんの部屋、洋風な窓がとても素敵。そこからは、赤く色付いた葉が秋風にのって流れているのが見えた。
そういえば日も短くなった気がする。
秋が深まっているみたい。
ふぅっと息をついてわたしは鞄からノートを取り出した。
春近さんがわたしのお兄さんだとしたら、
馨さんは、先生。うーん、先生と言うには少し違う気がするけれど、馨さんはわたしの先生だ。
少しデレッとした先生。
春近さんの、お友達。