青薔薇に愛を込めて
「ではセルリアの子よ。ぬしらはこの者をここに留め置く、と取っても良いのだな?」
「………はい」
リツィリアさんは再びミリテスに視線を持っていき、頷いた。
けれどミリテスは咎めるようにすっと目を細め。
「わしは人の子の決定に口を挟むことはしない。……ぬしらは、神の道筋から外れている渡人を懐に抱えると、ぬしら自身で決めたのだ。どのような災いが降りかかろうと、この者に関してわしの助言を受けようなどと思わぬようにすることだな」
要するに自分は忠告したぞ、ということだろう。
リツィリアさんは神妙にゆっくりともう一度頷いて、感謝を述べた。
燃えるような赤髪がさらりとゆれる。
ふと、ミリテスが自分の濡れた手のひらを持ち上げた。
それはとても緩慢な動作で、心なしかさっきまで強い意思に爛々としていた瞳もとろんとしているように見える。
「……そろそろ時間のようだ。わしは一眠りするとしよう」
言って、微かに唇の端を持ち上げる。
そして瞼をそろりと下ろした途端、がくっと力なく泉の中へ崩れ落ちた。