青薔薇に愛を込めて
―――――――
「……なんなのよ」
ぽつりと呟いて、ローニャくんに駆け寄り、彼を支えるリツィリアさんを尻目に、ふらりとおぼつかない足取りで部屋を出た。
「―――どこに行かれるのですか?」
「!」
すぐ横からかけられた声にびくっと肩を震わせ、視線を向けると、そこにはジュリエさんがいた。
「……部屋に戻ろうと…思いまして」
「でしたらこちらです。失礼ですが、殿下をお待ちしなくてもよろしいのですか?」
事務連絡をするかのように淡々と口を開くジュリエさんは案内の手を差し出しながらも、私の目をじっと見つめながら訊ねた。
たぶん、待った方が良いのだろう。
何も分からない私はこの世界では赤ちゃんみたいなもので、誰かの誘導が必要なのだ。
でも、待つことすらも億劫で、私はふるふると首を横に振った。
できればもう顔も合わせたくない。まあ不可能だろうけど。
「いえ、いいんです」
「そうですか、分かりました。では、私が案内させていただきます」
「ありがとうございます」
無表情に似合わず、とても丁寧にエスコートしてくれるジュリエさんに感謝しつつ、私は歩き出した。
そういえばと、不意に前を歩くジュリエさんに訊ねた。
ずっと聞きそびれ、疑問におもっていたことだ。
「リツィリアさんって、殿下とか呼ばれているけど何の人なんですか?」
まあ、なんとなく想像はつくけれど。
「王の直系の子、王位第一継承権を持つ王太子殿下です」
「あ、そうですか」
そんなところだろうとは思ったよ。
だってあの垢抜け感とかばりばり王子って感じだし。
はあと大きく息を吐き出して、私を一瞥したジュリエさんの後ろを大人しく付いていった。