青薔薇に愛を込めて


「ひっ……!」



その足音は着実に私の方へと近付いていた。

あまりの恐怖に喉が引きつる。


こつ、こつ、こつ


音と音の間隔が狭くなっていく。



「いや、いやっ…来ないでっ」



悲鳴をあげようにも掠れた声しか出なくて。

扉を背に、ただ震えることしかできなかった。



「柚子、柚子っ!——ゆっ…むむ!」



頭を抱えてただひたすらに柚子の名前を呼んでいると、口元に何かが押し付けられた。

一瞬恐怖に頭が真っ白になったけど、それが人間の手だと気付いて、必死に暴れまくった。



「むむむっ!むーーっ!」

「ちょ、静かにしろって」



何も見えないけど、その少し低めの声に目の前の人物が少年なんだと分かった。

口に当てられた手は温かい。幽霊ではないらしい。


でも柚子の私室の近くにいるなんて、彼女の知り合いじゃなきゃありえない話だ。

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