青薔薇に愛を込めて
どうしよう、逃げたい…
真剣な眼差しのヴェルから視線を引き剥がして、逃げ道がないか辺りを見回すけど。
というか、ここどこ?
辺りは赤や白、黄色の薔薇で一杯だ。
いわゆる薔薇園というやつだろうか。
私たちが今いる場所は円くて広い空間で、テーブルや椅子があるから休憩所的なところらしい。
柚子と知り合ってもう長いけど、彼女の家の構造はでかすぎて把握しきれていないから、ここがどこなのか皆目見当がつかない。
壁代わりになっている薔薇の生け垣の向こうには、中世ヨーロッパ風のお城。
よし、とりあえずあっちに向かえばホールに辿り着ける。
「おい聞いてんのか」
「え?あ、はいはい、聞いてますよ」
聞いてなかった。脱走経路のことで頭が一杯だった…
ヴェルの眼差しが真剣すぎて怖かったからとぼけてみたけど、どうやら全く意味がなかった様子で。
「聞いてなかっただろ。……まあいい。とにかく、俺の代わりにホールへ戻ってくれ」