青薔薇に愛を込めて
「…ホールへ?」
ちょうどそっちに逃げ出そうとしていたから、ヴェルの提案に思わず聞き返してしまった。
でもヴェルは律儀に是と頷いてくれる。
「ああ、しばらく俺の身代わりになってくれ」
「でもすぐにバレちゃうと思うんだけど…」
「いや大丈夫だ。ほら、俺ら同じ顔だし」
でも声は明らかに違うよね。あと瞳の色も。
私はちょっと薄めの焦げ茶色。ヴェルは南海を思わせる青緑。
顔が同じでも仕草とか細かいところは全然似てないと思う。
この疑問をヴェルに投げ掛ければ、彼は鷹揚に頷いてみせた。もちろんドヤ顔で。
「俺は口を利けない女だと思われてるんだ。…こんな声だから、男だってすぐバレるだろ?
それと瞳の色は…たぶん、初対面のやつらばっかだから誰も気が付かないはずだ。
それにこの顔が二人もいるなんて誰も思わないだろうから、実際、瞳の色なんて些細なことだよ」
口を利けない女って……まあ確かにその声で女って言われても無理があるかも。
早口で力強く捲し立てられ、私はたじたじ。
完全に彼の勢いに負けていた。