青薔薇に愛を込めて
柚子はしがみつく私に目もくれず、誠司さんと楽しげに笑い合う。
それでも私は絶対にこの腕を離すまいと、出る限りの力でしがみついたけど。
「っ!?っ柚子!」
突然、私の手は柚子の腕をすり抜けた。
柚子の腕は半透明になって、いくら手を伸ばしてもすり抜けるだけ。
まるで蒸気の中を掻き回しているみたいだった。
非現実的な現象に驚く気持ちよりも、柚子が行ってしまうことに対する恐怖が勝っていた。
「行かないで!お願い!」
馬鹿みたいに何度も手を伸ばしていると。
柚子たちはするりと人混みにその身体を滑り込ませ、私を引き離そうとするように色とりどりの衣服を纏った壁が、行く手を阻んだ。
「柚子、誠司さんっ」
力の限り叫んでも、振り向くことさえしないのは、柚子だけではない。
誠司さんも、周りの人たちもだ。
こんなのおかしい!
もう、嫌だ…!