青薔薇に愛を込めて
「さて、話さなければいけないことは沢山あるけれど、まず君の謝罪が何に対してなのか聞こうかな」
そう言ったリツィリアさんはとても楽しげだ。
私は含みのある彼の口調に首を捻った。
傷以外に何かあったっけ?
「えと、腕の…」
「腕?…ああ、これか」
腕の傷を指差せばリツィリアさんはちらりと一瞥しただけで、私にまた視線を戻す。
あれ?違った?
あんなに改まっていたわりに、反応が薄い。
というか、いまだ微笑んでいるリツィリアさんの目が笑っていないように見えるんですけど。
「君は、国の体裁より僕の身体の方が心配なんだね。嬉しいことだよ」
「国の体裁?」
聞き慣れない単語を反芻すれば、彼はさらに笑みを深める。
何だろう、嫌な予感。
「もう忘れたのかい?夜会直前で逃げ出し、戻ってきたと思ったらまた逃げ出す。一体、何回逃げ出せば気が済むんだろうね。
嫌なのは充分、僕だって理解できるけれど、この婚約は個人間の問題ではなく国――つまり自国の国民たちにも関わってくることなんだよ。
君が逃げ出すことで両国の関係が悪化すれば、被害を被るのは君ではなく君の国の国民たちなんだ。そんなことも理解できないほど、君の頭は発展途上なのかい?
国王に随分甘やかされたようだけど、もうここはスピリアではない。君の我が儘はもう通じないんだ」