青薔薇に愛を込めて
「どういうことかな?君はこの婚約に関係ないとでも言いたいのかい?」
リツィリアさんは優雅に足を組み換える。
そして膝の上に頬杖をついて、私を見上げてきた。
笑っているけど、彼を取り巻くオーラは真っ黒だ。
どうやら怒らせてしまったらしい。
圧倒的なリツィリアさんの迫力に、私は息を呑んだ。
少し怖いけど…
怯むな陽花!
「私はヴェレーナ…いや、ヴェルではありません」
ヴェルごめんね。
だって、なんだか予想以上に大事になっているんだもの。
こんなことなら、身代わりなんて引き受けなかったのに。まあ、無理やり押し付けられたようなものなんだけど。
というか、この悪夢のような出来事の原因は、たぶんヴェルの身代わりを引き受けたからではないだろうか。
そんなことを考えていれば、完全に恐怖はなくなって、逆に怒りが沸いてきた。
もちろん、ヴェルに。
「私はただ、ここに迷ってしまっただけです。本当は日本で伊庭家のパーティーに出ていたはずなんです。
偶然会ったヴェルに身代わりを頼まれて、ホールに行こうとしていたんです!」
ここが日本ではないだろうことは、予想がついている。
突然、異国に飛ばされるなんて非現実的だけど。
でも日本にこんな国を左右する結婚なんてあるはずがない。
天皇陛下の結婚ならもしかしたらあるかもしれないけど、天皇陛下が赤毛に金色の瞳だなんて聞いたことがないし。