先輩と後輩の恋愛事情


参ったな…。



あの中に筆箱入ってるのに…。
これじゃ書けないよ…。




途方にくれて先生に見つかりませんように、と心の中で強く思った。




あわよくば、保健の先生がカバンに気づいて持って来てくれるかもという小さな期待も持って…。




けど、私の願いは叶いそうになかった。




「桜井さん!」



先生に見つかってしまった。



この先生は怒るとネチネチと言ってきていちいちめんどくさい。



学校の先生、嫌いな人No.1だよ。



絶対…。





「どうしてペンも持たず何も書こうとしないんですか!?」




どうしてって、筆箱がないからじゃん…。





「そんなに先生の授業がつまらないですか?
なら早く教室から出てってください!」




何でそうなるかな…。




ちゃんと生徒を見ようとしない、話も聞こうとしない。




こんな先生大っ嫌いだ!




…なんて先生に言えるわけもなく、私はただジッと黙って下を向いていた。





「桜井さん、早く筆箱出して書いてください!」




…だからないんだって…。



カバンもないっとことに気づいてよ…。




「……本当にあなたは先生をナメてるんですか!?
早く出して書きなさい!」




先生の怒鳴り声が教室中に響く。



いや、学校中に響いた気がした。




ノートを淡々と写していた子も、めんどくさいとか知らんぷりしていた子も、みんなみんな先生の声でビックリしていた。





今日は最悪な日だ…。




怖くて、言いたいことを胸に詰めて言えなくて、辛くて、私はもう泣きそうになっていた。




泣いたところで先生が優しくなるなんてことはない。



むしろもっと怒鳴ってうるさくなるのだ。




そんな人を何人も見てきた。




誰か…助けて…。




一粒の涙が手の甲にこぼれ落ちた瞬間、ガラッと勢いよく扉が開き



「実梨ちゃん、忘れ物だよ!」




と言って入って来たのは、先輩だった…。









< 39 / 138 >

この作品をシェア

pagetop