先輩と後輩の恋愛事情
え?
ちょっ、待ってよ!
これじゃ帰ることすらできないじゃん!
キョロキョロと辺りを見回す。
けど、辺りにはそれらしいものは見当たらなかった。
「うそでしょ…?」
何これ!
嫌がらせにも程があるよ!
見つからなかったら私帰れないじゃん!
上履きで帰れって言うの!?
そんなの、ムリに決まってんじゃん…。
イライラと、悲しみが同時に込み上げてきて、涙がにじみ出てきた。
くっ、泣いてる暇があるなら早く探そう。
グイッと制服の袖で拭いて涙をぬぐう。
よくマンガとかでは外に投げてあるとかあるよね。
じゃぁまずは外かな…。
…上履きで?
えぇーい、ちゅうちょしてる暇なんてない!
生きごんで、上履きでグランドに行こうとした時だった。
前から紀田くんが現れ、
「これあんたの?」
と靴をつき出されながら言われた。
それは泥まみれになったスニーカーだった。
「ちょっと貸して…」
その靴を受け取り、泥で汚れた靴の背中部分を手で払うと、『桜井』と薄くマジックペンで書いてある名前を見つけた。
「うん、これ私のだね…」
元は白色でと黄色いラインが入った靴だったが、泥でもう何がなんだかわからなくなっている。
「これ、体育館裏の泥水ん中あったけど、何で?」
「何でって…」
それは私が嫌がらせされてるからなんだけど、そんなこと言えないし…。
えーと、何て言おう…。
「まぁ取りあえずその靴洗うから貸して」
「え?」
言い訳を考えていた私の手から紀田くんは靴を取り、外の手洗い場に持って行った。
すぐ近くだったから、私もその後を追いかける。