先輩と後輩の恋愛事情
「じゃ、帰るか」
「うん…。
でも靴濡れてるから…」
帰れない。
「あぁー、ちょっと待ってろ!」
「うん…?」
その場で待って、五分もしない内に紀田くんは帰ってきた。
袋を肩にかけて。
「ほら、これはけ」
「えっ!?」
紀田くんはその場ではいていた靴を脱ぎ、私に渡した。
「え、でもこれはいたら紀田くんがはく靴がないんじゃ…!」
まさかそのまま帰るの!?
「俺はサッカーではくスパイクがあるから心配すんな」
そう言って肩にかけていた袋の中から黒いスパイクを取り出した。
そうだよね。
普通に考えてそのまんまじゃ帰らないよね…。
「ほら、早くしろって」
「あ、うん!」
紀田くんにせかされながらも借りることにした靴をはいてみる。
「ぷっ。
ブカブカだな…」
クスクスと笑う紀田くんは、朝の印象が全くと言っていいほど無くなっていた。
「しょうがないよ、私と紀田くんの靴の大きさ全然違うんだから」
「ま、そうだよな」
歩くたんびにカポカポとなって、靴が脱げて転びそうになった。
「しっかり歩けよー」
「ちゃんと歩いてるよ!」
後ろでクスクスと笑われながらも上履きを下駄箱に戻す。
「も〜、そんなに笑わなくてもいいじゃ…」
いいかけた時、段差のところで靴が脱げ、転けそうになった。
「わっ!」
地面に手を付く。
という数センチのところで私の体は支えられた。
「あっぶねぇ〜…」
さっきまであっちで笑っていた紀田くんは走って来たのか、冷や汗をかいていた。
「気を付けろよな。
危うくケガするところだっただろ!」
「ごめん…」
確かに助けてもらってなかったら、手をちゃんとつけれなくてケガしてたかも…。
支えられていた体を元に戻される。
「ま、ケガがなくて良かったな」
ふっと笑って紀田くんは私に手を差しのべた。
「1人で歩くの危ねぇから俺が支えてやるよ」
「え、あ…」
私は戸惑った。
こんなところ、先輩に見られたら誤解されるかもしれない…。
けど、きっと紀田くんはそういう感情なんてないはず。
ただ親切にしてくれてるだけ。
大丈夫、私だって先輩が好きなんだから…。
「うん…」
私は差しのべられた手を取った。
大丈夫、紀田くんにはそういう感情はない…。
私は先輩だけが好き…。