先輩と後輩の恋愛事情
「――……!」
誰か…呼んでる…。
…先輩?
「…い、桜井、桜井!」
ハッと目を覚ます。
「きだ…くん…?」
「やっと起きた…。
おはよ」
「…おはよ…」
あれ、私また寝てた?
さっき呼んでたのは紀田くんだったんだ…。
って。
「え!
もう夕方!?」
ガタッとイスから立ち上がり、外を見た。
外はキレイに夕焼けが保健室に差し込んでいる。
「何度呼んでもなかなか起きないから、どうしようかと思ったよ」
「ごめん…」
苦笑いする紀田くんに、私はシュンとして謝った。
「ま、今日はいろいろあって疲れたんだろ。
帰ろう」
「うん…」
笑って扉に向かう紀田くんを追いかけようと歩き出したところで、足を止めた。
「…桜井?」
「……ダメだよ……」
「え?」
「一緒には帰れない。
先輩と帰らなきゃ…」
「…先輩と付き合ってるんだってな」
「知ってたの?」
「先輩に聞いた」
「そうなんだ…」
先輩、今頃どうしてるだろう…。
きっと誤解したまま落ち込んでるのかな…。
先輩のことを思うと、ズキズキと胸が痛くなる。
「…そんな思い詰めたような顔すんなよ…」
「……」
「先輩には俺が、ちゃんと話して誤解解いといたから」
「…え」
今にも涙がこぼれそうな状態で顔を上げ紀田くんを見る。
「先輩も分かってくれたみたいだし、良かったじゃん」
「……そっか」
良かった。
紀田くんが誤解解いてくれていたんだ。
ホントに良かった…。
安心と嬉しさで、我慢していた涙がまた流れ出してきた。
「桜井は泣き虫だな」
ハハハと笑う紀田くんは服の袖で涙を拭う。
ありがとう、紀田くん。
ありがとう…。