強引な次期社長の熱烈プロポーズ


ブォン!


夜の街を走る白い車。その車内に百合香はいた。
前に1度、ここに座ったことはあるけれど、今は全くその時と違ったように景色が走る。

ちらりと右隣を見ると、運転に真剣な柳瀬。
そんな横顔がまたかっこよくて、百合香は頬を赤く染めてしまう。

「そんなにみられたら、穴が開きそうだ」

不意に柳瀬が百合香を見てそう言った。

慌てて自分の足もとに視線を落とす私に、

「運転中以外は俺が同じように見てるけど」

なんて言うもんだからもう柳瀬を見ることができなくなった。


自宅まで、本当にすぐだ。
百合香は自分が現金な女で、前はすぐにでも離れたかったのに今は、少しでも傍にいたい。離れたくない。そんな風に思っていた。


そんな想いはやっぱり顔に出てしまっているようで、柳瀬が百合香にデコピンをした。

「送り狼にさせたくなかったら、そういう顔をするな」
「うぅ…」
「それとも、そうさせたいの?」
「!!!!」

(きっと私は顔が真っ赤。そんなことを考えていた訳じゃない。離れるのがいやだな、とは思っていたけれど。
でもそんな風に言われたら、帰るしかなくなっちゃう。)

百合香は車から降りて、助手席の扉を閉めた。

「ありがとうございました」
「今度はどこかゆっくり行こう」

そして柳瀬の車はあっという間に小さくなってしまった。


『今度はどこかゆっくり行こう』


百合香はその言葉を何度も反芻しながら部屋についた。
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