強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「あまり、無邪気すぎるのも危ないな」

まだ触れるには遠くない距離で、柳瀬は一言そう言った。
百合香にはピンとこない言葉だったけれど、追求する思考回路もなくてただ頬を赤くして柳瀬について歩いた。



バタン


車に乗り込むと、柳瀬がエンジンもかけずに百合香を見る。

「?」
「本当に、心配。」
「え?何がですか?」
「そういう鈍感なとこ」

シートベルトをしようと思っていた手を止めて、柳瀬をみる百合香。
その手の上から柳瀬が手をかぶせると、あの真っ直ぐな瞳で百合香を見つめる。


「君はプライベートでも俺を副店長と見るかもしれないけど、俺は逆に仕事中も部下として見れるかわからない」
「私、今そんな目で柳瀬さんのこと見てないです…」
「上司失格だ」


すると覆っていた手を掴まれて、引っ張られると、もう片方の手は頭に添えられた。
さっきのエレベーターのキスとの違いは、激しくて、息も出来ないようなキス。

「や、な…せさ」

名前を呼ぶことも阻まれて、何度も何度も求められる。



「今は上司じゃないから、名前で呼んで――――百合香。」

その言葉だけでさらに胸の奥が熱くなる百合香は、自分でも信じられないけれど、自ら柳瀬の唇へと触れに行く。

「…智さん」

その声を聞いて柳瀬もまた、スイッチが入る。

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