強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「以前お預かり頂いてます万年筆はもう少しお時間がかかるかと」
「ええ、わかってますから大丈夫よ。」
「申し訳ありません。ご不便でしょう。」
「他にも愛用しているペンはありますから。柳瀬さんが謝ることじゃないですよ」


少し離れたところにいても、開店まもなくで他にお客様がいないから会話が聞こえてしまう。
笑顔で接客は仕事上基本。そんなの今気付いた訳でもなんでもない。
けれどどうしても面白くない、と思ってしまうのが本音だ。


「速水さん、頑張るね」


ぼそっと坂谷が言った。

「…まぁ柳瀬さん素敵ですもんね」
「え?!神野さんももしかしてタイプ!!?」
「えっ…た、タイプっていうか…客観的に、見て?」
「そうだよね、男の俺でもちょっと見入っちゃうもんな」

そんな会話をしながら2人でちらちらと柳瀬の方を窺う。


「本日は?」
「…今日は特に用はなくて」
「そうなんですか」
「少し、柳瀬さんの顔が見たくなりましてね」


それはありがとうございます。と軽くお辞儀をして柳瀬は笑った。

(智さんなら、気付くよね?
速水さん、本気で智さんのこと…)


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