強引な次期社長の熱烈プロポーズ
別に不安な訳ではない。
柳瀬が自分を裏切って誰かとどうこうなるなんて思ってる訳じゃない。
けど、それとこれとは別の感情で。百合香は自分の中の独占欲が膨らんでいくことに嫌悪感を抱きつつも、どうしても気にしないようにすることは出来ないでいた。

そんな百合香には構わずに、速水は柳瀬と話を続ける。

「柳瀬さんは…」
「はい、なんでしょう」
「その、お休みの日…は何を?」
「その日によっていろいろと」

柳瀬は笑顔を崩さず、当たり障りのない答えを淡々と速水に告げる。
大事な常連さんだ。あまり失礼な態度はできないし、営業中だからどこでだれが見て、噂を流されるかもわからない。


「…柳瀬さん、こちら、出していただけます?」
「こちらですね、かしこまりました」


そうして目の前のショーケースの中の一本のボールペンを速水に差し出すと、店頭で用意してあるメモ用紙にすらすらと何か試筆をしてる後ろ姿が見えた。


「すみません」
「はい?」

柳瀬の方を気にしてみていた百合香の後ろから、お客様に声を掛けられた。

「これと同じものを探しているんですが…」
「あ、はい。こちらです、ご案内しますね」

百合香はとてもあの2人が気になるけれど、今は仕事中。お客様が最優先。渋々その場から離れてお客様を目的の売場へと案内した。

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