強引な次期社長の熱烈プロポーズ

3.貴方になれたら



休憩から戻った後、百合香は午前中に抱えていた仕事は終え、店内も落ち着いているので久しぶりにショーケースの中のペンを磨くことにした。

各メーカー毎にショーケースを分けていて、大きいものから小さいものまで入れてその数はざっと10は超える。
とりあえず目の前にあった舶来メーカーに手をつける。
それは、以前柳瀬の胸ポケットにいつも光っていたドイツ製のブランド。

百合香は手に白袋をはめて、トレーに一本ずつ取り出して布で磨いていく。

真っ黒なボディに金色のリングとクリップ。シンプルなデザインで、ぱっと見は他のメーカーにも似たようなのはあるのだが、毎日関わっているとその違いがわかってくる。
似ているようで、それぞれに個性がある。

このドイツ製のものは万年筆を愛す人ならだれもが一度は憧れるブランドだろう。

その分値段も張るが、一生ものとして長く使える逸品だ。


(私もそろそろ万年筆を一本くらい自分で選んで買いたいな。)


百合香の制服のポケットには一般事務用のボールペンが2本と比較的安価な万年筆が一本。
安価なものが悪い、と言う訳ではないのだが、せっかくこんな素敵なペン達に囲まれて働いているのだから何か奮発したものを手にしてみたい。
そんな憧れはきっとここに配属になった人ならだれでもそう思うだろう。

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