強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「付き合うの？」
「ま、まさか！」

だってただキスされただけで、好きだと言われた訳でもない。
しかもさっきのニュアンスだと“昨日のお詫びのキス”のような感じだった


だけど、胸の奥が熱くなって今でも唇の感触が忘れられないのは本当。

自分の唇に指を当て、少し俯き頬を赤らめる百合香を見て綾が口を開く。


「絶対素直にならなきゃだめよ」


そう一言言った綾の顔はどこか少し寂しそうで、悲しそう。

（なにかあったのかな…？）

百合香は自分の話ばかりでいつも綾の話を聞いていないことに気付いた。


「桜井さん…あの」
「さて！休憩終わるから私先行くわ！」
「え？あ、ほんとだ…」

百合香は腕時計を確認し、急いでテーブルの上を片づけ始める。

「あと、化粧室。寄った方がいいわよ。」

綾は指で唇を示し軽くウインクして休憩室を後にした。


（化粧室…？）

不思議に思ってそそくさと５階のトイレに駆け込む。

「あ」

鏡の前で百合香はまた赤くなった。

お昼まともに食べていない筈なのに、口紅が落ちている。
それであのキスを連想させられるには十分だった。
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