強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「もう出るから」

柳瀬のその一言で百合香は焦って布団を跳ね除け、起き上がった。



「····引っかかった」

柳瀬が笑って、不意打ちのキスをした。

「まっまた!そういう風に狡いことを…」
「その話、まだするの?俺は別にいいけど」

そういって柳瀬が百合香に迫りながら昨夜のことをにおわせて百合香の反応を楽しんでいる。
百合香はまんまと掌で転がされて、顔を真っ赤にして口をパクパクとさせていた。

「続きはまた夜に」

余裕たっぷりで笑いながらそういう柳瀬は既にスーツに身を包み、リビングからはテーブルの上に軽食と、落としたてのコーヒーの香りが漂っていた。


(あぁ。私、最初から寝ぼけて、なんの手伝いも出来なかった…)


すぐに自己嫌悪に陥るのは百合香の悪い癖。
そしてそこから立ち直るのにも時間を要する。

そんな百合香の性格はこの3年上司として見てきた柳瀬は手に取るようにわかっていた。


「今夜、何か作ってくれる?」
「え…?」
「メニューは任せるよ」
「わ、わかりました!」


そうやっていつでも先回りして百合香をフォローしてくれるのは仕事のときだけじゃなかった。
本当に優しい、素敵な上司で、恋人。

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