強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「お世話になっております。弐國堂《にこくどう》文具の神野と申しますが川口さんはいらっしゃいますか?」

百合香が電話口で待っている間にカウンターに柳瀬が戻ってきた。


「いらっしゃいませ。ご試筆出来ますのでどうぞお声をお掛け下さいませ。」


一人のお客様に声を掛けるとすぐにお客様が柳瀬になにやら相談をし始めた。
そんなやりとりを見つめながら百合香は受話器を耳に当てていた。


「贈り物で。50代の男性なんですけど、どういったものがいいかしら?」
「ご希望の品は万年筆でしょうか?」
「そうね。万年筆がいいかしらと思ってはいましたの。」


スマートな接客。白袋を両手にはめて、ショーケースからいくつか取り出してお客様にお出しする。
口元は上品に口角を上げ、笑顔で色々と説明をしている。


(ほんの1時間前に、私、あの唇に…)


『もしもし。川口ですー……もしもし?神野さん?』


遠くで聞いてるだけだった電話に、百合香は慌てて返事を返した。

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