強引な次期社長の熱烈プロポーズ
息を切らし始めた頃に指定の場所付近に着いた。

（走ったのはいつ振りだろう。意外にまだ走れるものだな。）

そんなことを考えながら、広い交差点を見回す。
どこにいるのかわからない。屋外なのか、屋内なのか…
ふと交差点すぐ横向かい側に位置する珈琲店の看板が目に入った。
信号が青になると飛び出してそこに向かう。

交差点を渡りきった時に珈琲店の入り口が見えてきた。
その入り口には男女の人影があって、焦る気持ちのまま小走りでそこへ向かう。
そして残り数十メートルというところで柳瀬は目を疑う光景を見た。


「っ！何してるんだよ！」


柳瀬は後ろを向けてる江川の肩を力ずくで掴んで引っ張った。
江川の腕の中に百合香がいたから。抱き締めていた、とまでは行かないが、彼女に触れ、少し彼女ももたれ掛かっていた気がする。
いくらいつもヘラヘラしていて、多少のことが許される性格だからと言ってもそんなことは通用しないくらいに逆立っていた。

「智さん！」

その声を聞いて柳瀬は百合香を引き寄せ、自分の元に置いた。
百合香は目を丸くして驚いた顔をしている。

「····５分以内、か」
「江川…何をして…」

腕時計を見ながら江川が言うと、柳瀬が本気の顔で視線を送り続ける。

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