強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「神野さんはまだご自分の“一本”を持ってらっしゃらないの?」
「はぁ…?」
「万年筆、もしくはボールペンでも。ああ!でも今度もしうちの工場に来るときには1本差し上げられると思いますから」


本当にどこまでも強気な女性〈ひと〉。
何もかも、百合香が柳瀬に釣り合わないと否定しているのだと匂わせる言い方だ。

(きっと…いや確実に、私と智さんの関係に勘づいているんだ。)

だから、好戦的な会話を持ち掛ける。
百合香がどんな出方をするのか試すように。そして、百合香のこんな弱い反応はきっと彼を奪えるという自信に変わって。


「自分の一本は、じっくり選びたいんです」


百合香はせいぜい言えてもこの程度。
図々しくなんて、やっぱりなれなかった。

「そうですか。素敵なペンに出会えるといいですね」
「…はい」
「それでは、私打ち合わせに行きますので」


コツコツッとヒールを鳴らして美雪はバックヤードへと消えて行った。
百合香は胸に刺さったペンと、目の前のショーケースの中のペンを見ていた。
< 253 / 610 >

この作品をシェア

pagetop