強引な次期社長の熱烈プロポーズ
足早に先にエレベーターを降りると、3歩後ろ辺りから坂谷がついて歩く。

“ついて”と言っても、向かう先が同じところなのだから仕方がないのだが。

それからお互い声を発しないまま事務所を通り、ロッカールームへと別れて入った。

ロッカールームには百合香一人きり。
百合香は緊張を吐き出すようにふーっと息をついて、ロッカーにもたれかかった。


(危ない危ない。
前に本当か嘘かはわからないけど、坂谷さんには『本気』だって言われてたんだった。
仕事中は別だけど、あとの時は気を緩めないようにしなきゃ。)


そして着替えの前に鞄から携帯を取り出す。
ランプは光ってない。でも一応画面を開いて確認する。しかしやはりそこには何ら変わらない待受画面が映し出されてるだけだった。


(今頃はどこで、何をしてるのかな。ホテルに入って、すぐにお食事にでもお呼ばれして接待されてるかな。)

本当はメールだけでもしたいけれど、向こうは仕事中。更には同行者があの美雪だ。

(迂闊にメールなんかして見られたら大変。大丈夫。智さんからの連絡を待とう。)


百合香は携帯をしまうとささっと着替えてエレベーターに向かった。
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