強引な次期社長の熱烈プロポーズ
柳瀬は一言断って席を立った。
レストルームに行くように見せかけたが、本当は百合香に連絡を入れる為だった。

美雪も上司が同席している手前、勝手な行動はできない。
その隙をついて、柳瀬は店を出て外で携帯電話を取り出したのだった。


(百合香、今はもう店の外だな。)

昨日はあんな中途半端なメールしかできなかったから。多分、彼女のことだからほとんど眠れなかっただろう。
あと一日。
明日の夜には東京に帰れる。それまで、この電話で少しでも百合香の気持ちを軽くさせられるか····


はやる気持ちを抑えて、一呼吸おいてから百合香の電話にコールする。


今すぐ直接会えたなら、どんな誤解でも、どんな罵声でも受け止められるのに。
もし泣いて、俺の前から去ろうとしても、手を伸ばして捕まえられるのに。


距離が離れていることに不安なのは百合香だけではない。
だから、柳瀬も今日は接待中でも関わらずに、時間を見つけて百合香に連絡を取ろうとしたのだった。


『プルルルル プルルルル プルルルル···』


「おかしいな、移動中か?」


長めに鳴らしているのに出ることもないし留守電にもならない。

柳瀬はこれ以上席を立ったままではまずいと思い、一度携帯をしまって店に戻った。


嫌な予感がする。

ふと第六感が感じ取ったが、金山達の前ではそれを気付かれないようにうまくやりすごすのだった。

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