強引な次期社長の熱烈プロポーズ

「――――やっ…」



瞬時に百合香は顔を逸らした。

（もう少し遅かったり、迷ったりしていたら完全にキス、されてた。）

坂谷も自分の強引な行動に反省したのか、小さく、ごめん。というと百合香のおでこにキスを落として肩に乗っていた手を解放した。


―――だめ。
こんなふらふらと、智さんを裏切るような行為。


頬を少し赤く染めて、潤んだ瞳で、懸命に自分を奮い立たせようとする百合香を見て、坂谷はついまた百合香に触れそうになった。


バッと身を引いて目を合わせる。


「あ···」


あからさまに避けたから、さすがに気まずい。

百合香は近くにタクシーが止まってるのを見つけると、頭を下げて走り出し、それに乗り込んだ。


「···はぁ。」

タクシーを見つめながら自分の髪をくしゃっと掴んで落ちた傘を拾い、坂谷は重い溜め息をひとつついた。


いつの間にか雨は、止んでいた。