強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「柳瀬さんっ」

裏に入るや否や、百合香は柳瀬を呼び、駆け寄った。
ちょうど柳瀬は電話を終えたところのようで振り返り売場に戻ろうとしていた。


「何かあった?血相変えて」
「今、聞いて…っ!私の客注の蒔絵が、ないって」
「ああ···」
「すみません!でも、ちゃんと確認してFAXも流したのにっ…」


(そう。手順は間違えてなかった筈。
きちんと在庫があるって確認したし、その日のメーカー営業時間内にもFAXを流した!【送信されました】って表示だって見届けて注文書をファイルに綴じたのに!)

そして次に思ったことは、あれだけ希望していた万年筆があったということに喜んで、前払いも気持ちよくしていってくれたあのお客様。


「どうしよう…あんなに嬉しそうに帰って行かれたのに…」


柳瀬は悲しそうにそう呟く百合香を見て、肩に手を置いた。


「神野さんは、やっぱり凄いね」


こんな状況で柳瀬はなにを言っているんだろう?!嫌味ではないことは表情でわかるけど、真意がわからない。と百合香は暫し固まった。

そして困惑した顔で柳瀬を見上げると、ふっと焦る様子も見せずに柳瀬は笑った。

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