強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「これが、ずっと使ってらした?」
「そうなの。でももう使えないでしょう?」
「ちょっと綺麗にしてみてから、チェックしてみますね」


百合香は預かったエンジ色の万年筆を慎重に移動して洗浄機へと掛け始めた。

半身背を向ける格好になる百合香に女性はそのまま話を続けた。


「もうねぇ、それが使えないと思っているから、ダメでもいいのよ?」
「いえ、もしかしたらまた書けるようになるかもしれませんから、待ってて下さい」
「ありがとう」


まるで孫の家に来たかのような和やかな雰囲気のまま椅子に掛けている女性は、ちらりと横のショーケースに目をやった。


「でもね。あなたに何かまたペンを探して欲しいと思ってきたの」
「え?」
「今度は万年筆。なんだか懐かしくなって、また使ってみようかなって思えたの」


にこにことそう話しかけてくれる女性を、百合香はなんだか心温まる思いで見ていた。

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