強引な次期社長の熱烈プロポーズ


夜となると少し肌寒くなってくる。
だけど、さすがにどこかに入ってまでゆっくり話をすることもないかと智は自動販売機のコーヒーを買ってその女性に渡すと、バッティングセンターの前のベンチに腰を掛けて少し距離を開けて並んで座った。


「――椿くんの彼女だね」
「···はい」


肩までのセミロング、ふわりとしたスカートの女性は椿の彼女。名を早川涼香《はやかわすずか》と名乗った。

一見服装からすると百合香に似た雰囲気がして、智は心の中で椿に“姉バカ”と溜め息を漏らすのだった。


「すみません、突然。··今日椿に会いに行こうと思って会社の近くまで行ったら、物凄い急いでどこかへ向かったので···その··」
「ついてきちゃったんだ」
「は、はい··疑う気はなかったんですけど」


『これから彼女に会いに行く』


(そう言って走って行った癖に電話の一本すればいいことに気が付かない当たり、抜けてるな)


智はまた一人心で呆れた溜め息を吐くと、涼香には義兄ということを説明した。勿論、椿との話した内容は伏せたまま。


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