強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「ああ。広島にな」
「どうなの?万年筆工場って」
「なんか・・・ひとつの“国”みたいな」
「なんだそりゃ」
店長に同行させてもらって俺は先月広島へ出張に行った。
向かった先は老舗文具メーカー・オーシャンの工場。
万年筆だけではなくボールペンからシャープペンの芯まで、全てを生産している工場だ。
俺はそこに行って万年筆のいろはを、ライン長の金山《かなやま》さんに教わって帰ってきた。
手土産まで貰って―――。
「で、貰ったのがそれ?」
「ああ。“桜”だ」
「お前の年齢の割に渋くないか?」
「・・・あまり深く考えたことはない」
そんなやり取りをショーケースを挟んでやっていると、閉店の音楽が鳴り始めて江川は慌てて1階に戻って行った。
今日も、平和だな・・・