強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「シャワー使う?」
「いっいえ!自宅で済ませますから!」

柳瀬が百合香の後ろに立つと、香水ではなくてシャンプーのいい香りがした。
濡れた髪を片手で拭いて、ラフな部屋着になってる姿はまたいつもとは違ってセクシーでドキドキする。

すると柳瀬が百合香の肩越しに机の方へ顔を出して一本のペンを手に取った。その肩越しの距離が今にも触れそうなくらいに近すぎて、ますます百合香の鼓動は早くなる。

「これ」

その一本のペンを百合香に見せた。
赤い顔をしながらも、頑張って平静を装い、百合香がそのペンに視線を移す。

「…?万年筆ですよね?」
「そう。これは、“桜”」
「え?!“桜”?!」

百合香が驚いたのは、昨日あの店でみた“桜”とはまったく雰囲気の違うボディだったからだ。
柳瀬の手にしている“桜”は花びらではなく木目の方。
昨日見たものと比べると、深みと艶がまるで違う。今目の前にある“桜”の方が色が濃くて光を放っている。


「ほんとに、同じもの?」
「同じものだよ。これは俺が2階に異動してすぐに貰ったもの」
「ていうことは…」
「5年かな。こういう木の素材はね。使えば使うほどその人の手の温もりなんかで、艶と深みを増していくんだよ。」
「本当に、世界で一つだけの万年筆…」
「そういう風にもとれるかもね」


百合香は柳瀬からそのペンを受け取りキャップを開いた。


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